その昔、木更津キャッツアイというドラマが大好だった。VHSに録画して、何度も見た。
そのドラマの主要キャストである『佐藤隆太、岡田義徳、塚本高史』が出ていたドラマということもあり、『THE3名様』という作品も好きで見ていた。DVDをレンタルして何度も見た。
『THE3名様』はビッグボーイというファミリーレストランで三人の男性がダベっている、というだけの作品である。三人のやりとりも基本、脱力している。今の自分からすると「早く家に帰って寝ろ。時間がもったいないだろ。」という感想を抱きそうだけど、「時間は有限」だと感じていなかった若かりし頃のおれは、都会であんな感じの、退廃的と言うと大袈裟だけど、無益に時間を浪費するだけの青春を送ってみたいと憧れていた。
でも、自分が住む地域にビッグボーイはなかった。
そんなおれも就職し、会社の寮に入り、歩いて30分くらいのところにビッグボーイがある事が分かった時はめちゃくちゃ感激した。すぐにでも行ってみたかったが、でも、一人では行けない。おひとり様じゃ意味がない。そんなの、憧れていたビッグボーイじゃない。
その数年後、『THE3名様』が好きだという先輩(女性)と二人でビッグボーイに行く事ができた。お二人様だったし、男友達じゃなかったけど、あの特徴的な窓ガラスのペイントを見て、二人ではしゃいだことを覚えている。
その先輩はその後結婚し、「実はあの頃、○○(おれ)の事が好きだったんだよ」と告げられた。

そんな昔のことを、ふと思い出した。
今回入ったビッグボーイは、先輩と行った思い出のある店舗ではないけれど。
おれはその当時勇気がなかったし、今でもないから、自分が同性愛者である事を数人にしか話していない。
その先輩にも言わなかったし、言わないまま疎遠になってしまった。
もっと自分の性的指向をオープンに語る事ができる世の中だったらいいのにと思う。
他力本願だけど、誰かが、政治家が、マスコミがそんな世の中に変えてくれたらいいのにと思う。
「貴方もその世界の実現のために頑張ったらいいのに。」と言う人がいるだろう。
けど、おれは今まで自分が同性愛者である事でたくさんの事に傷ついてきたので、もう頑張りたくない。
疲れてしまった。
今は。
冒頭のドラマ『木更津キャッツアイ』は金曜ドラマの枠で、資生堂ティセラのCMが頻繁に流れていた。
CMソングは松浦亜弥の『桃色片想い』である。
おれは松浦亜弥が好きだった。
ライブも見に行った。
友人達はおれが松浦亜弥を好きだという事で、安堵していたと思う。
この人(おれ)には彼女がいないけど、ゲイではなくストレートなのだ、だってアイドルを好きだと言っているのだから、と安堵していたと思う。
当時のおれは、
松浦亜弥を好きだということは事実だけど
友人達がおれをストレートだと勘違いするように仕向けているという自覚はあり
申し訳なく、
心苦しく思うと同時に、
『でも集団にうまく溶け込むには必要な事だ』と
一生懸命自分を正当化していた。
その努力はいつか努力なくしてできるようになる、
息をするように自然に嘘をついたり
誤魔化したりできるようになると思っていた。
けれど、
友人達との付き合いが長くなり、
間柄が深まっていくにつれ、
友人を騙している
自分は大事な事を話していない
という自責の念に苛まれることになった。