上村松園を見に。京セラ美術館

上村松園:うえむら しょうえん(1875-1949)

京都に生まれ育つ。女が絵を描くなどけしからんとされた時代に絵を学び、描き続けた。師事した男性の子供を身篭り、未婚のまま出産。美人画を得意とする。こんな内容のテレビ番組を見たことがあった。

番組は松園の絵画技法に焦点を当てて製作されていたように記憶しているが、おれは「女だてらに絵など描いて」「結婚もせずに子供を産んで」と周りから非難されながらも、生涯をかけて絵に取り組んだ彼女の生き様の方が印象に残った。その番組は、松園の子の父は師であった鈴木松年と紹介していたように記憶している。

おれは松園を『逞しい女性だな』と思った。周りから反対される職業を選び、努力して自分で稼ぎ、未婚のまま子供を産み養う。今の時代でも相当大変なことなのに、松園が生きた時代であれば尚更風当たりが強かっただろう。

もう会期が終了しているが、京都市京セラ美術館上村松園の絵を見られる機会があったので行ってきた。

間近で絵を眺められたから、額や首筋の細い産毛や、着物の透け感などの写実的な描写を楽しめた。また、着物の黒い輪郭線は現在の漫画表現を連想させて面白かった。黒くて太い輪郭線は、和月伸宏っぽいなと思った。漫画家は、きっと色々な作家の影響を受けているんだろうと想像して楽しかった。

「花がたみ」というタイトルの絵は大きくて迫力があったし、描かれた女性がどことなく冨永愛に似ているような気がして美しいと思った。「焔」に描かれた女性はとても寂しい目をしていて、綺麗だった。

この「焔」は[びじゅチューン!]焔(ほのお)のお習字教室のモチーフにもなっている。

 

おれの恋人は美術館に行きたがらない。理由を尋ねると、その分野に明るくないから楽しめないと言う。でもおれも詳しいわけじゃない。さっきの「花がたみ」や「焔」などの代表作について解説する本やサイトがたくさんあるけど、おれはそれを読んで内容や背景を理解して美術館に行っているわけではない。

事前知識なしに絵や作品を眺めて『なんか分からんけど良い』『なんか分からんけど好きじゃない』と心が動くのが好きだから、美術館に足を運ぶのだ。『なんか分からんけど良い』と感じた理由は何だろう、と考えるのが楽しいのだ。

解釈を受け手(見る側)に委ねているのも、美術館を好きな理由の一つかも知れない。

おれは「鬼滅の刃」が好きで、漫画も全巻持っているし、アニメも見たし、映画も観に行った。ただ、主人公が説明し過ぎるところはあまり好きじゃない。登場人物の口を借りて作者が内容を解説している作品に出会うと、読み手の作品を解釈する楽しみが奪われていると感じる。そのような作品は余韻に浸ることができないから、何となく物足りない。

でも、たくさん解説してくれて大丈夫です。解説お願いします!という漫画もある。

おれにとっての解説お願い作品は「ジョジョの奇妙な冒険」である。独特の画風も相まって今何が起こっているのか理解できないということがあるので、登場人物が自己の置かれた状況とこれから起こるであろう予測をペラペラと喋ってくれるので助かる。

この「ジョジョの奇妙な冒険」を貫くテーマが人間讃歌なのだが、おれは上村松園の作品に同じものを感じた。

美しい女性を描き続けた松園。

描く女性が人形のようで人間を描けていないと批判を受けた松園。

女性とは人間とはと悩み抜いて描いた「花がたみ」や「焔」で新たな境地を切り開いた松園。

松園は一貫して女性讃歌の人だった。

美しい女性を、苦悩する女性を描き続け、女性は美しく、可愛らしく、強く、恨めしく、全部ひっくるめて美しいという思いを、絵に込めていたのではないか。

そんな妄想を膨らませながら、美術館を後にした。