恋人とおれでは育ってきた環境が違うから好き嫌いはイナメナイ ベタなお笑いがダメだったり吉本新喜劇が好きだったりするのね

おれが小学生だった頃は土曜日も学校があって、半ドンで家に帰ってテレビで吉本新喜劇を見ながら昼ごはんを食べるというのが常であった。子供なりの悩みや嫌なことは色々あってそれは今でも思い出せるけど、それでもやはり思春期以降に抱えることになる悩みや、社会人になってから乗り越えなければならなかった様々な困難と比べると、穏やかな子供時代を過ごしていたと思う。親から守られて生活していたという事実を、想像すらしなかったあの頃。吉本新喜劇はそんなおれの平穏な小学生時代と結びついた存在であった。

そんな吉本新喜劇ではあるが、中学、高校に入ると部活やら何やらで土曜日は忙しくなって吉本新喜劇を見る回数は減っていった。そして進学のために上京してからは、土曜日のお昼時に吉本新喜劇は放送されていなかったし、東京では王様のブランチという情報バラエティ番組が幅をきかせていたので、東京の流行り物を摂取したい盛りだったおれは吉本新喜劇からすっかり遠ざかってしまった。

ところで、おれの恋人は東京生まれ東京育ちであり吉本新喜劇には馴染みがない。おれも恋人もお笑い番組が好きで一緒に見る機会が多いのだけれど、吉本新喜劇を観て育った人とそうではない人とでは、お笑いに対する見方が少し異なっていると感じる。それはベタな展開を面白いと捉えるか否かってところで現れると思う。おれはお決まりのパターン、テンプレのお笑いを好意的に捉えているが、吉本新喜劇はその最たるものであり、それぞれの芸人さんがお決まりのギャグを持ち、そのギャグの発動条件、繰り出すタイミング、それを受けてからの周りの反応も決まっており、予定調和である。でも、そこが良い。意外性はないけれど、ないけれどと言うか、あまり意外性を求めていない。名人芸というか。『来るぞ来るぞ、、、来た!笑!!拍手』みたいな。でも恋人は、吉本新喜劇に全く触れてこなかったがために、たまにお笑い番組に新喜劇の芸人さんが出てショートバージョンの新喜劇を披露するのを見ても、あまり笑わない。あの独特の空気感に馴染めないらしい。そんな恋人を見ておれは『吉本新喜劇を楽しむには素養が必要だったのか』と新鮮な驚きがあった。

ただ、恋人以外の東京生まれ東京育ちで吉本新喜劇を観たことがない人で、ベタなお笑いが好きな人はいるかも知れない。というか、いるだろう。いや、絶対いるな。いるいる。

前置きが長くなったが、友人達を誘って、今回生まれて初めて吉本新喜劇を観に行った。恋人は吉本新喜劇に興味がないので家で留守番である。劇場はなんばグランド花月。なんばグランド花月という名前を聞いただけで子供の頃の土曜日を思い出してグッと来る。ここに来られたというだけで何だか感無量である。何十年も吉本新喜劇から遠ざかるという不義理をしてきたのに、ちゃっかりと感動した。そしておれは知らなかったのだけれど、新喜劇以外にも今をときめくよしもと芸人達の漫才も見られるらしい。めちゃくちゃお得だし、しかも、おれが行った時の演者はそうそうたる顔ぶれであり、全員が全員とも面白かった。『わざわざお金を払って観に来ているので絶対に楽しんで帰ろうマインド』が発動していたのかも知れないけど、本当に全員が面白かった。

おれがウエストランド河本太の顔ファンであり、VSウエストランドを見ていたため、まるむし商店の磯部さんを事前に知ることができた。太様様である。

吉本新喜劇は、おれが子供の頃に見ていた芸人はほとんどいなくなっていたけれど、Mr.オクレや島田珠代が健在で嬉しかった。初めて見る芸人が多かったけど、みんなが舞台上で緻密に計算された掛け合いを披露して、時にはアドリブを入れて、あれよあれよと物語が進みあっという間に終わってしまった。本当に楽しかった。おれは島田珠代の「今日のパンティーが明日のシュシュになる」というネタで一番笑った。それに、脚本もベタだけど感動する部分があっておれは涙を流した。でも一緒に行った友人に「一体どこに泣く要素があったのか」と不思議がられた。友人も早く歳を取れば良い。そうすればいろんな事で簡単に泣くことができるのに。

漫才、コント、落語、そして本命の吉本新喜劇を観ることができて大満足だった。先週は恋人とM-1ツアースペシャルを見に行くことができたし、今回は吉本新喜劇を見られたし。今年はお笑いをたくさん見て笑って、来年も、これから先もずっとずっと笑って、死ぬまで辛く悲しいことなんて一つも起きない、そんな人生を送ることができたらいいのにと、帰りの新幹線の中で思った。楽しいことが立て続けに起こると、性格なのか何なのか、不安な気持ちが押し寄せ来て胸が苦しくなる。浮ついた気持ちでいると痛い目を見そうだから気を引き締めなければ。と、強引に気持ちを落ち着かせながら大阪を後にした。

なんばグランド花月の一階にあるしゃぶ笑。ランチ営業もしている。空いていたので落ち着いて過ごすことができた。
同じく一階にある喫茶店。あーる。タリーズよりも比較的空いている。
一階にあるたこ焼き屋。油で揚げないタイプのたこ焼き。美味しい。