北条政子の墓参りにて未来の話を

新緑の美しい季節に、恋人と鎌倉へ行った。

長く電車に揺られて小腹を空かせた我々は、まずは買い食いをしようということになった。

恋人は満腹であれば機嫌が良いという御し易い性格をしている。裏を返せば、空腹だと集中力を失うか、少し不機嫌になる。なので、観光をする際は、恋人の腹が満たされているか否かを気に掛けておく必要がある。

今これを書きながら引っかかったのだが、「御し易い性格」という言い方はよろしくない。ではどのように言い表すと良いだろうか。「満腹であれば機嫌が良いというかわいらしい性格」と言おうか。いや、かわいいという表現も上から目線だろう。そもそも、他人の性格をジャッジすること自体が思い上がりである。したがって、「おれの恋人は満腹であれば機嫌が良い」という事実のみを記すべきだろう。

、、、我ながら面倒臭い性格だと思う。

話が逸れてしまった。

我々は鎌倉駅に着くなり、小町通りにある『さくらの夢見屋』で四色団子を食べ、『湘南鎌倉コロッケ』でよこすか海軍カレーコロッケを食べた。

腹ごしらえの済んだ我々は、鶴岡八幡宮で躑躅と牡丹を眺めた。腹が満たされている時に眺める花や空は美しい。

これは世の真理の一つであろう。

その後は近くの英勝寺で竹林を散策するなどし、さあ、次はプールのあるスタバに行こうとGoogle マップを開くと、図らずも北条政子の墓が近くにある事を知ったので、参る事にした。

北条政子の墓は観光地化されることもなく、全く静かな墓地だった。お邪魔して、お騒がせして申し訳ないという気持ちで手を合わせた。

帰り際にある墓石がふと目に留まった。それは恋人の苗字が彫られた墓石だった。そして、その隣にはおれの苗字が彫られた墓石が立っていた。これはすごい偶然だと互いに顔を見合わせると、

「自分たちは一緒の墓石に入ろうね」と恋人が言った。

「  そうしよう」と咄嗟におれは言った。

日本には、同性愛者に結婚制度を適用しないという法律上の差別が存在する。そして、おれは思春期を迎えた頃から、結婚や子育てを何とかして諦めるように、期待を抱かないように、一生懸命努力してきた。

けれど、恋人はこいう事をスパッと言える人間なんだと思って、少し驚いた。

おれは恋人の言葉を聞いて、嬉しさよりも戸惑いの方が大きかったのだけど。

「  そうしよう」なんて。

なんか、こう、もっと気の利いた返事を、互いの記憶に残るような言葉を言いたかったのにな。

墓地には他の参拝客がいたので、彼らの死角になるところで、恋人の手を一瞬だけ、しっかりと握った。

プールも藤棚もある、綺麗なスタバだった。

水辺で飲むアイスラテは美味しかったけど、夕風のせいもあって身体を少し冷やしたから、早く二人の我が家に帰りたいと思った。