2022年8月30日
目覚めると隣に恋人の姿はなく、ヴィラに併設されているプールで泳いでいた。恋人がおれより早く起床するのは珍しい。恋人がプールから上がるのを待って、昨晩フードパンダでデリバリーしてもらった残り物を朝食にした。恋人は「昨日よりも美味しい気がする」と言って食べていたので、長引く体調不良もそろそろ終わりが近づいてきたのだろうか。
今日は終日晴れの予報だったので「FLOAT ME UP」というルームサービスを受けることにした。これは水に浮かぶ盆に軽食とジュースを載せて部屋まで届けてくれる、というサービスである。案内の写真から、盆をプールに浮かべて軽食や飲料を楽しむことを想定しているサービスのようだが、果たして軽食等を水に浮かべる必要があるのかと思わないでもない。あと、おれは食べ物に直射日光が当たると不安になる。だがしかし、ここは南国のリゾートである。『何となく楽しそう』という理由だけでサービスにお金を払って然るべき場所である。
1,059.3THB(4,137円:クレジットカード決済)

食事の内容だが、

何の葉かは分からないが衣がパリパリで、チリソースがかかっていて、サーモンが乗っていて、めちゃくちゃに美味い。夢中で食べた。
生春巻きは、カレーソースを絡めたシャキシャキの野菜がもっちりとしたライスペーパーに巻かれていて美味しい。これも夢中で食べた。
他にも、オリーブのフリットのバジルソースがけ(串に刺されているやつ)。塩味の効いたオリーブの青い香りが鼻に抜けて美味しい。またしても夢中で食べた。
あとはたこ焼きっぽい何か。野菜とオーロラソースが生地に包まれている。これが絶品でめちゃくちゃ美味しい。また食べたい。

タコス(ハードタコ)は皮がパリッとしていて、挽肉もたっぷり入っていて美味しかった。刺激の強いスパイスは入っておらず、優しい肉の旨味を存分に味わいながら食べた。

ココナッツジュースは以前ピア21フードコートで飲んだものよりも美味しかった。ほんのり加糖されているかいないかぐらいの甘さで、青臭さもなく美味しかった。
『軽食を水に浮かべる必要ある?』『食べ物を南国の日差しに当てて大丈夫?』と思いながら注文した「FLOAT ME UP」は、映え写真を撮るための装置としてのサービスではあるだろうけれども、味がめちゃくちゃよかったので大満足だった。チェックアウト時に領収書を見たら、敷地内の日本食屋の名前でカードが切られていたので、そこで作られた料理なのだと思う。
おれはFLOAT ME UPを大満喫できたが、食事の間中プールに浸かっていたためか、恋人のお腹の調子が再度悪くなった。その後恋人が体力回復を図るための昼寝タイムに突入したので、おれは一人でビーチを散歩した。
ビーチのソファで一人で座っていると、ホテルスタッフが「暑いから水をどうぞ」と持ってきてくれたり、「これを敷くと良いよ」と大きなタオルを持ってきてくれたりと、何かと優しい。ありがたい。
部屋に戻ると恋人が「帰ってくるのが遅い」とぶつぶつと文句を言ってきた。『君の体調不良が原因でおれの単独行動時間が発生しているんだけどなぁ』とおれにはおれの言い分があるのだけれど、体調不良時の恋人に何を言っても険悪になるだけなので黙っておいた。
今日は終日降水確率がゼロの日なので、ビーチでサンセットを見ようと朝から決めていた。ビーチにSIPというバーがあって、ハッピーアワー(BUY ONE、GET SAME ONE FREE! ひとつ買えば、同じものを無料でゲット!)をやっているみたいなので、未だブツブツ言っている恋人を着替えさせてビーチに出かけた。恋人は何となく気乗りしておらず「砂浜は足がとられて歩きづらいから舗装道路を歩きたい」と言う。SIPはビーチか舗装道路、どちらのルートでも行くことができるので、舗装道路ルートは若干の遠回りにはなるが恋人の希望に沿った。
バーに着くと、スタッフが円形のソファにクッションと大きなバスタオルをセッティングしてくれた。そんな、、、そんなにしてもらって良いんですか?ありがたい。とまたもや思いながら、サングラスを掛けたままゴロンと寝そべって、マンゴージュースを2つ頼んだ。
会計を見ると2つ分請求されていたので、「ハッピーアワーだから一杯は無料になるのでは?」と聞くと、「ハッピーアワー特典はアルコール類にだけ適用されます」と言われた。ケチなおれはショックを受けたが、サングラスのおかげでおれの表情は相手に悟られなかっただろう。

恋人が一杯を飲みきれないと言うので、おれが一杯と半分くらい飲んだ。マンゴージュースはめちゃくちゃ美味しかったけど「ソフトドリンクはハッピアワーの対象じゃないなら、一杯だけ頼めば良かったね」と恋人と話しながら夕陽が落ちてくるのを待った。
海に入っておれがプカプカ浮いたりしていると、それを見ていた恋人も羨ましくなったのか海に入ってきた。が、少し浸かってすぐに出て行った。もう何日も続いている激しい下痢のために、恋人の肛門の粘膜は損傷しているのだった。そして「傷ついた肛門に海水がすごくしみる」と言うことだった。かわいそうに。


部屋に戻る際、恋人がやはり「砂浜を歩きたくない」と言う。おれが「砂浜ルートなら途中にシャワーが設置されているから、砂と海水を洗い流せるよ」と言うと、恋人は少し考えた後でトボトボとついてきた。そして、ビーチのシャワーで肛門についた海水を洗い流していた。ずっとヒリヒリしていたのだそうだ。シャワーを終えて恋人は少し元気を取り戻した様子だったので、おれが
「砂浜が苦手。
海も苦手。
虫も苦手。
カップ麺にお湯を注ぐのも苦手(だいたいいつもお湯をこぼす)。
苦手なものばかりでビーチリゾートは向いてないんじゃないの?」と恋人に言うと、
「プールに入るから良い」という返答であった。
別にこのタイミングで、恋人がカップ麺にお湯を注ぐときにいつもこぼしてしまう事を指摘しなくても良かったのだが、恋人の体調不良が長引いていて、何かおれもイライラしていた。それにしても、カップ麺にお湯を注ぐだけの(おれにとっては超絶)簡単なことが『何でできないの?』と思ってしまうのだが、そんなことですら不得手とする人がこの世の中にはいるということを、おれは恋人と付き合って初めて知った。本当に色んな人がいる。
それにしても、ちょっと元気を取り戻した途端に恋人にチクリと嫌なことを言うおれ、もっと優しくなれ。