バンコク旅行記26(サムイ島02) リゾートホテルでタオルを使いまくる恋人とそれを見て勿体無いと思うおれと。

2023年8月29日

 恋人の食中毒が治らない。夜中に何度も起き、トイレに行っては嘔吐と下痢を繰り返している。8月24日に食べた牡蠣オムレツが原因だとすればそろそろ治っても良い頃だと思うのだが、苦しみが長引いている。朝ごはんを食べに行く元気がないと言うので、バンコクのスーパーマーケットで購入しておいたカップ麺を部屋で啜る。さすがにタイのカップ麺なだけあって結構なスパイシー具合であり、恋人の弱っている胃腸には刺激が強すぎる味だった。
 おれの恋人は、平生わりと機嫌が良い方である。朗らかというか、のんびりしているというか。しかし、長引く体調不良によりこの数日は機嫌が悪く、その恋人と四六時中一緒にいるおれも気疲れてイライラし始めた。そしておれは、恋人がリゾートホテルのバスタオルを贅沢に使いまくることに対して「けしからん」と思い始めた。
 以前から、恋人はリゾートホテルに宿泊するとバスタオルを贅沢に使う。リゾートホテルは大きめのバスタオルを用意してくれているから、身体を拭き終わっても濡れていない部分が多分に残っている。でも恋人は「取り替えて貰おっと」と言って一度使ったタオルをひょいひょいバスタブに放り投げる。おれはまだ拭けるから交換してもらわなくても良いんじゃないの?と言っても「ここはリゾートホテルだから。タオルの交換もホテルのサービスに含まれているから」と平然と言う。確かに、リゾートホテルはタオルを快く取り替えてくれるだろう。
 だけど、おれはホテルのサービスについて恋人と話したいのではなく、おれのイライラの原因は『勿体無い』の精神を恋人と共有できないことにある。タオルを洗ったり乾かしたりするには当然、洗剤、水、エネルギー、人の労力等々が費やされる。一度使っただけの大きめのバスタオルなんてまだ全然拭けるし、なんなら浴室のフックにひっかけておけば乾く。なにもおれだって、ビーチに持って出て砂のついたバスタオルを「また使おうぜ」と言っているわけではない。それに十分に水気を吸って重たくなった、いわば役目を十分に果たしたバスタオルを交換してもらうことについては、何ら異論はない。おれは、恋人が「ちょっ」と拭いただけでまだ乾いた部分がたくさん残されているタオルが交換されてしまうことに対して、『勿体無い』と思っているのだ。
 この『勿体無い』に関する感覚ってのは厄介で、多分育ってきた環境にかなり左右されている。だから、おれの『勿体無い』を恋人に押し付けることはおれのエゴだと分かっている、けど、だって「タオルまだ拭けるじゃん!」ってなる。
 ちなみに我が家では、普段からバスタオルの使用が禁じられている。禁じているのはおれだ。理由は「バスタオルを洗うのは水と洗剤が勿体無い。身体を拭くのはフェイスタオルで十分。」というものである。他にも、物干しスペースが狭いから他の洗濯物を干す際にデカいバスタオルは邪魔という理由もある。というわけで、フェイスタオルで身体を拭くのが我が家のルールである。同棲を始めた当初、恋人から「フェイスタオルは小さくて身体を拭ききれない」という不満の声が上がったため、毛足が長く吸水力のあるフェイスタオルの導入で恋人のバスタオルを使わせろ運動は下火になった。でもたまに思い出したように「大きなふわふわのバスタオルで身体を拭きたいな〜」と言うことがあるため、不便は解消されたが不満は残っているというのが正直なところだろう。
 これを書いていて思ったが、普段バスタオルの使用を禁止されている恋人のフラストレーションが爆発して、リゾートホテルステイでは思う存分バスタオルを使いまくっているのかも知れない。
 『勿体無い』の話に戻る。おれは自分なりの『勿体無い』と思う気持ちを大事にして生活しているが、タオル交換程度のエコ的観点でピリピリイライラしても仕方がないことは分かっている。だって、海外のリゾートホテルに行くために乗った飛行機は莫大な化石燃料を消費しているし、ホテルのプールだって大量の真水を消費しているし、おれの行動を見て「どこに『勿体無い』の精神があるんだ。石油とか水とか限りある資源が勿体無いと思うなら家でじっとしとけ」と指摘する人もいるだろう。もしそのような指摘を受けたとしたら、おれは『うるせぇ黙れ』としか思わないだろう。
 だから自分でも分かっているのだ。『勿体無い』だとか『エコ』だとかは、今のところ各々に任された道徳心というか倫理観でしかなく、人に強制したりされたりするものではないのだ。社会的なルール、明文化した法律ではないのだから。だから恋人に対して『勿体無い』の精神から彼の行動にイチャモンをつけるのはモラルの押し付けである。もちろん、『勿体無い』のレベル感が同程度の人と一緒に居た方が心地良いのは事実だけど。
 でもまぁ、普段からバスタオルの使用を禁じられている恋人が、リゾートホテルで思う存分タオルを使っていても別に良いじゃないか。おれはおれが思う『勿体無い』に従って行動すれば良いだけの話だ。次からは、恋人がふわふわのタオルで身体を拭いてご満悦になったいたならば、「良かったねぇ」と思って眺めることにする。

午前中は土砂降り
雨上がりのW
恋人がホテルから出るのもしんどいというので、フードパンダアプリを利用した。食べ物はWのエントランス前まで配達してくれる。