デパ地下が好きだ。美味しそうなものがたくさんあるから。
特にケーキ屋のショーケースが好きだ。果物やチョコレート、ゼリーのコーティングなどがツヤツヤと光って綺麗だから。
おれはケーキの中で、モンブランが好きだ。栗のペーストと生クリームが口の中で混ざり合う瞬間が最高に美味しいから。
ちなみに、菓子の「モンブラン」の語源は、ヨーロッパ最高峰の山の名称から来ているらしい。おれはモンブラン=栗のケーキだと思い込んでいたので、イチゴや桃のモンブランという商品を見かける度に『はて、栗が使われているようには見えないが』と違和感を持っていたのだが、モンブランは『モンブランという山に見立てたケーキ』ということで、何も問題はないようだ。
そんなモンブラン好きのおれがジェイアール京都伊勢丹のデパ地下をフラフラしていたとき、モンブラン専門店のイートインコーナーを発見した。
『どれどれ』と看板を見てみると、お勧め商品が2,860円とある。
たっか。
モンブランたっか。
無理無理。
そうして京都を去った。
しかし、日を追うごとに食べてみたくなるのである。
そんなに高価ってことは、はちゃめちゃに美味しいってことなのではないか。
モンブランが3,000円弱と考えると確かに高い。が、出せない金額ではない。
これを食費と捉えると高いが、レジャー費用として考えることもできる。
そうだ。最高のモンブランを食べるというレジャーに支出すると考えたら良いのではないか。そうすれば、ケーキひとつに3,000円弱を使う贅沢をしているという罪悪感から逃れる事ができるのではないか。そうしよう。次に京都に行った際には、レジャーとしてモンブランを食べるぞ!と、おれは覚悟を決めた。
この「和栗専門 紗織」は京都木屋町に本店があり、ジェイアール京都伊勢丹地下1階のカフェは期間限定店舗という扱いである。
数ヶ月ぶりに京都に来たおれは、電車を降りるとすぐさま伊勢丹の地下に向かった。
平日の昼間だったためか、行列はなくすんなりと席に通され、おれはお目当ての1日限定30食の錦糸モンブラン「紗」を注文した。
席で待っていると、店員さんが「今から栗を絞るので良ければ見に来てください」と呼びに来てくれた。間近で栗がニニニニーーーっと絞られる様子を観察しながら、おれの2,860円が、今まさに絞り出されている、と思った。

結果、めちゃくちゃ美味しかった。
細さ1mmの栗のペーストが口の中でホロホロと崩れていく感じとか、その和栗ペーストの上品な甘さとか、中に入っているメレンゲの焼き菓子のサクサク感とか、そのサクサクメレンゲと栗ペーストを一緒に食べたときのハーモニーとか、とにかく美味しかった。
コーヒーなどのドリンクもセットになっているので、それなりに高かったけど、見て楽しく、舌で美味しく、満足な体験だった。
ただ、このモンブラン、巨大である。サイズを小さくして価格も安くなると、おれとしてはもっとハッピーである。ただ、消費者にとって支払うのが勇気のいる価格設定ってのが、このお店の広告戦略でもあるのだろう。
余談ではあるが、おれが好きな栗のお菓子は、「御菓子所 川上屋」の栗きんとんである。
上品で素朴な甘さ。滑らかなのにホックリな舌触り。大好き。